30歳を過ぎてから、両津勘吉の生き方がカッコよく見えるようになった【こち亀】
何年かぶりになんとなく手に取った『こち亀』を読んで、少し泣きそうになった。
子どもの頃はずっとギャグマンガだと思っていた。不真面目でお金大好きな警察官が毎回ハチャメチャをやらかして怒られる、それだけの話だと。
でも30過ぎて読み返すと、両さんが全然別の人間に見えた。
やりたいこと、思いついたことに実直でとてもエネルギッシュで、魅力的、こんな風になりたいと心から思える存在になっていた!
こち亀とは
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』は1976年から2016年まで40年にわたって週刊少年ジャンプで連載していたマンガ。なんと一度も休載はなく全201巻・1960話を走り抜けた、文字通り伝説的な作品です!

インターネットやポケモンの黎明期、スニーカーブーム、水不足、消費税、ドローンなど、その時世に合わせたテーマを掘り下げていて、当時の熱量がわかる歴史書的な側面もあります。
「名前は知ってるけどちゃんと読んだことはない」という人も多いはず。
主人公の両津勘吉は、葛飾区亀有の交番に勤める警察官。お金と遊びへの執着が人一倍強くて、毎回なにかをやらかしては怒られる。
子どもの頃の僕にとって、両さんは「ダメ人間」でした。ジャンプではいつも真ん中より少し後ろにあって、ワンピースやナルトを読む合間の箸休め。「また両さんが怒られてるな」くらいの感覚で読み飛ばしていました。
その印象が、30を過ぎて完全にひっくり返ることになります。
30歳を過ぎると両さんが別人に見える

改めて読んで一番驚いたのは、両さんの「行動力の質」でした。
アメリカで起業する。自作した機体でドローンレースに出る。潜水艦で無人島までサーフィンに行く。スケールが完全におかしい。そして大体、最後は盛大に失敗します。
でも、ここからが子どもの頃に見えていなかったところです。
両さんは、失敗を引きずらない。
殴られて怒られたその次のページには、もう次のことを始めている。落ち込む描写すら、ほとんどない。やりたいことがあれば、まず動く。うまくいかなくても、それが次に進まない理由にはならない。
子どもの頃の僕は「失敗して怒られる」部分だけを見て笑っていました。でも今は、その何度でも立ち上がる姿の方に目が吸い寄せられる。
しかも両さんは、35歳(諸説あり)。
自分とそう変わらない年齢の人間が、あれだけのエネルギーで毎日を生きている。子どもの頃は「35歳」がどんな重さの数字か、まるでわかっていませんでした。でも実際にその年齢に近づいてみると、その数字がやけにリアルに迫ってくる。
フィクションだとわかっていても、「同い年がこれだけやっているぞ」と、背中を押されるような気持ちになるんです。
40年間休まなかった作者の力強さ
こち亀が40年間一度も休載しなかったというのも、30過ぎると別の重みで読めます。
週に1本、クオリティを保ちながら面白い話を作り続けるというのがどれほど大変か。「続けること」の本当の難しさを少し知った上で読むと、1960話という数字がただの記録ではなく見えてきます。
連載初期の1976年と最終回の2016年では、日本社会そのものが大きく変わっています。バブル期も、失われた20年も、スマホの普及も、こち亀はすべての時代を走り抜けた。
時事ネタや当時のトレンドをふんだんに盛り込んだこち亀は、ある意味で昭和後期から平成にかけての日本史を熱量たっぷりに描いたマンガでもあります。
30歳を過ぎた今こそ刺さる、こち亀エピソード3選
ここからは、僕が実際に読んで「うわ、この話すごいな」と唸ったエピソードを3つ紹介します!
スニーカー世界戦略の巻(100巻)

世間は大スニーカーブームの1997年。スニーカーに詳しい両さんに、町の靴屋からスニーカー開発の相談が持ち込まれます。
転売で何度も失敗してきたからこそ蓄積された、両さんのスニーカーへの異常な知識量。その知識が、ある局面で突然力を発揮します。
面白いのは、両さんがスニーカーに詳しくなった動機が「失敗の繰り返し」だという点です。転売で損をするたびに市場を研究し、なぜ失敗したかを考え続けた。その積み重ねが、本物の専門性になっていた。
好きなことへの執着は、いつか専門性になる。
失敗しても、損をしても、スニーカーへの熱だけは冷めなかった。その執着こそが両さんの武器でした。最近なにかを「もう歳だから」と諦めかけている人にこそ、刺さる回だと思います!
世界一の下町タワーの巻(174巻)

とある事情から、両さんがスカイツリーの建設現場で働くことになる話。舞台は2011年、まだ完成前のスカイツリーです。
この回の主役は、いつものハチャメチャな両さんではありません。現場で汗を流す職人たちに、正面から向き合う両さんです。
お金の匂いがしないところで、両さんは本気になる。普段あれだけ金儲けに目を血走らせている男が、人の情には誰よりも厚い。このギャップに、両津勘吉という人間の本質が詰まっています。
そして何より、開業前のスカイツリーに東京中が沸いていた、あの期待感。今では当たり前にそびえる塔が、まだ「夢の途中」だった頃の空気が、この1話にまるごと保存されています。
コンテナハウスの巻(198巻)

港でのバイト中、賭け将棋でコンテナを50台勝ち取ってしまった両さん。すぐに「コンテナハウスを造って売ろう」と思い立ち、実際に作り始めます。
「コンテナ50個手に入ったらどうするか」と自分に問うと、たぶん持て余して誰かに売ってしまうと思います。でも両さんはそこから商売を始める。しかも実際に作ってみると注文が殺到する。
この「なんでもビジネスにしてしまう発想の速さ」が、30過ぎると眩しく見えます。アイデアと行動の間に、両さんにはほとんど間がない。「やってみよう」から「やっている」までの距離が異常に短い。
コンテナの頑丈な構造の秘密なども詳細に描かれていて、読んでいると「コンテナハウスって面白いな」と思わせてしまうのも両さんの魅力です。
もやもやしている社会人のあなたへ
両さんは失敗しても、次の話になったら次のことを全力でやっている。それだけ。なのに、読んでいるこっちの背中を勝手に押してくる。
ギャグマンガだと思って軽い気持ちで開いたのに、読み終わったら、まるで違う気持ちになっていました。
これが、30歳を過ぎてからのこち亀の読み方なんだと思います。
もし最近、なんとなく停滞している気がするなら。一度、両さんに会いに行ってみてください。きっと、あなたの中の「やってみたかったこと」、「なりたかった自分」を思い出させてくれるはずです。







